LOVELY☆ドロップ

彼女は祈を抱きかかえ、そして祈はこちらを見下ろして手を振っていた。

美樹ちゃんはただ、仕事に行くぼくを見送っているだけ……。

他愛もない姿だ。



……それなのになぜだろう。

たったそれだけのことなのに、ぼくの胸が締めつけられ、瞼(マブタ)が熱くなるのを感じた。

もう少し、この光景を見ていたい。

そう思うぼくの意思は、経過する時間によって遮られる。


ぼくは、見送ってくれる和やかなふたりから視線を外し、もう一度腕時計を見下ろす。



約束の時間ギリギリ1時間前だ。



ああ、急がなきゃ。


アイオンプロダクションの社長でもあるぼくの友人、金山 聡(カナヤマ サトシ)はさすが大きい企業を立ち上げているだけのことはある。

彼は時間厳守を何よりも大切にしていた。

いくら美樹ちゃんのことでひと悶着(モンチャク)があったからとはいえ、遅刻を許してはくれないだろう。



内心急ぎながら、4階の廊下にいるふたりに手を振り返すと運転席へと乗り込んだ。


今日という仕事が終わればまた家に帰れる。

そうなれば、祈や美樹ちゃんとも話せるわけで、だからこれが最後の別れではない。


後ろ髪を引かれる思いで自分にそう言い聞かせると、キーを回してエンジンをかけた。


ハンドルを握り、車を発進させるとマンションを抜けた先にあるのは大きな交差点だ。


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