LOVELY☆ドロップ
「ごめん、少し休憩にしよう」
ぼくは目の前でポーズを取ってくれているモデルにひとこと断りを入れ、家からではないことを祈りながら、今も鳴り止まない携帯を大きなカバンから取り出した。
「……はい」
神妙な面持ちで電話に出ると、間もなく返事が返ってきた。
「潤(ジュン)? 今仕事中だったかしら?」
自分の名前を名乗らないその声はとても弾んでいて、明るい。
この電話が誰からなのかは、28年間の長い付き合いでよく知っている。
ぼくの母親の端月(ハヅキ)だ。
美樹ちゃんからではないことに取り敢えずほっと胸を撫(ナ)で下ろし、仕事中に電話をかけてくるデリカシーがない母親に若干の苛立ちを覚える。
「大丈夫、もうすぐ終わるところだから」
それでも母親に思っていることを言わないのは、彼女はああ言えばこういう性格で、ひとこと反論するとわずらわしいことに二言も三言も返ってくるのだ。
今、忙しいからとぼくが言えば、彼女の返事はきっと、『だってあなた、今電話に出てるじゃない』とそう言うに違いない。
こういう時は何も言わず、受け流すのが妥当だと、ぼくの経験が言っている。
「そう、よかったわ」
――それにしても、電話の相手にぼくの顔が見えないことは幸いだ。
ぼくは今、ものすごく苦笑いをしながら彼女と話しているだろう。
そんなことを思いながらうなずき返すと、今のぼくには予想できなかった母さんの言葉が携帯から聞こえた。