LOVELY☆ドロップ
「あ~あ、こんなときママがいたらな~。おせんたくものだって、きょうのおてんきだって、ママがおしえてくれるのに……」
祈は一丁前に小さな手を腰に当て、仁王立ちをする。
……ああ、またはじまった。
ぼくが『また』と思うのは、それが彼女の口癖だったからだ。
ぼくは祈の、『ママが欲しい』発言には耳にタコができていた。
祈が母親を求めるのもわかる。
それは祈が生まれると同時に母親は亡くなってしまったから……。
祈の母親、つまりはぼくの妻は生まれつき体が弱かった。
といっても、これといって彼女自身に持病はなかったんだが、生まれつき抵抗力が弱く、よく風邪をこじらせる体質だったんだ。
そして、祈が生まれる当日になって彼女は熱をこじらせた。
……しかも、40度近くの高熱。
自分が命を落とす危険性もあったのにもかかわらず、妻は自分の体に宿ったもうひとつの命を選び、生んだ。
彼女は祈の命を守ったんだ。
妻の名前は沙良(サラ)。
彼女とは大学で共通の学科だった。
はじめは彼女の存在を特に気にもしていなかったが、選択科目もいくつか同じものがあって、体のこともあり、休みがちな彼女にノートを見せるようになったのがきっかけだ。
そうして互いに同じ時間を過ごしていくうち、ごくごく自然と付き合うようになった。