LOVELY☆ドロップ
そのことは十分に理解している。
実際ぼくの母にも祈には母親が必要だと指摘され、見合いを勧められたことも何度かある。
けれど、ぼくはにはその気がない。
それは、妻という存在がいかに重要で簡単に決められることではないということも含まれているが、ぼく自身が沙良以上に興味を抱く女性がいないということだ。
本当にこればっかりはどうしようもない。
「祈、だけどね。そういうことは、なかなかうまくいかないものなんだよ」
ぼくはしゃがみこみ、ぼくの言葉を理解して欲しいと、祈と目線の高さを合わせた。
けれど、どんなに辛辣な物言いをしても彼女はまだ5歳。
まだまだ子供だ。
やわらかい頬をぷくっとふくらませ、拗(ス)ねる。
「だって……だってパパ。いっつもおしごと、おしごとって……。イノのこと、あとであとでばっかり!! いつもおばあちゃんとおじいちゃんばっかり……」
祈の視線はもうぼくにはない。
顔を俯(ウツム)け、地面を見つめていた。
ぼくと目を合わせようとはしない。
かわいいネコのキャラクターがプリントしてあるビニール靴の先っぽで地面をなぞっていた。
やはり、どんなに平気そうな顔をしても子供だ。
かまってくれないことを嫌だと思っている。
それでも祈はぼくが仕事で忙しいことを知っている。
だからこうして彼女は彼女なりに健気にぼくを気遣い、『寂しい』というたった3文字の言葉さえも言わずにいるんだ。