LOVELY☆ドロップ
エピローグ
side:Jun Kusakabe
「赤ちゃん、かわいいね」
ふかふかのベッドで眠る赤ん坊を見つめるのは、今年小学1年生になったぼくの子供の祈(イノリ)だ。
赤ん坊を起こさないよう、小さな声で言ったその顔には満面の笑みが広がっている。
「そうだね」
そんな彼女も可愛くて、ぼくもにっこり笑って同意の印にうなずいた。
「ホットケーキできたよ」
ひょっこり顔を出し、そう言ったぼくのふたり目の妻、美樹(ミキ)はフライ返しを持ちながら、愛らしい大きな目をこちらに向けて微笑んでくれる。
「あとでね、赤ちゃん」
祈はそう言うと、妻の手を繋いでそそくさと出て行った。
――明日は、妻の実家に行って結婚したいと告げる日だ。
赤ん坊が生まれ、その次に挙式という順番は一般とは異なる。
正直、彼女のご両親がぼくを受け入れてくれるかは不安だ。
明日のことを考えると、気が気じゃない。
視線は宙をさ迷い、目の前にある仏壇を見る。
その仏壇は亡くなったひとり目の妻のものだ。
ふと、何気なしに中に飾られている彼女の写真に焦点を当てれば、写真の中の彼女がほんの少し、いつもより微笑んでいるように見えた。
心地いい夏の風がベランダ越しから入ってきて、レースのカーテンを揺らす。
『大丈夫』
ぼくと赤ん坊の周りを囲み、舞うそよ風からは、なぜか彼女の声も聞こえたような気がした。