LOVELY☆ドロップ
さっきまでの誇らしげな表情はどこへやら、とても心配そうにぼくを見る。
普段、祈はけっして泣かない。
彼女の感情表現は笑うか怒るか、どちらかだ。
それなのに、口元がへの字になって顎(アゴ)には皺が刻まれている。
松ぼっくりのような大きな目は潤み、今にも泣き出しそうだ。
「だいじょうぶだよ」
祈を宥(ナダ)めるため、ぼくはもう一度頭を撫でてやると、敷布団の上で横になっている女性にうわ掛け布団をそっと被せた。
……とりあえず、水とタオルだな。
あと、氷のうも持ってこよう。
ぼくは急いで立ち上がると必要なものを手に入れるため、部屋中を駆け回る。
洗面器に水を入れ、乾いたタオルを手に持ち、それから氷のうを脇に抱えて廊下と寝室の扉がある敷居を跨ぎ、ようやく部屋の中に入る。
すると、あんなに急いでいたにもかかわらず、そこに見えた光景に、思わず立ち往生してしまった。
祈は両膝を立て、布団にくるまっている彼女の顔を心配そうに覗きこんでいた。
それを見た瞬間――なんだろう。
眠っている女性が祈の母親のように見えた……。
病気で寝ている母を心配する子供――。
そんな構図が、そこにできていた。
そんなわけはないのに……。
ふたたび生まれ出たありもしない思考に首を振る。
そうしてぼくは部屋を出た時とは比べ物にならないくらい、ゆっくりとふたりに近づいた。
☆♪ONE☆ドロップEND☆