LOVELY☆ドロップ
……いったい彼女の身に何があったのだろう。
どれほどの悲しみや苦しみが、この細い肩にのしかかっているのだろうか。
彼女にふりかかるすべての苦しみから解放してやりたい。
そう思った。
……いやいや待て。そんなことを初対面の彼女に対して思うのはおかしいし、第一、ぼくには祈がいる。
自分自身とわが子の面倒だけでも手一杯だというのに、その上彼女の面倒も見ようというのはとてもおかしい。
女性に気づかれないよう、こっそり頭を振る。
そんなぼくの葛藤(カットウ)をよそに、彼女のふっくらとした赤い唇がひらいた。
「あの、ありがとうございました。あたしならもう大丈夫です。
奥さんにもお礼を言いたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?
服までお借りしてしまって……」
妻の沙良(サラ)はこの世から去った。
それはぼくの中で大切なものがひとつなくなってしまったということだ。
妻がいなくなってからというもの、ぼくの心の中にぽっかりと穴があいたような気持ちがあった。
正直、そのことにはあまり触れてほしくはない。
だが、彼女はそのことを知らない。
当然、祈がいるのだから妻もいるとそう思い、純粋な疑問をぼくにぶつけただけだ。
彼女に悪気はない。
だから、彼女の問いに率直に真実を答えるべきだ。
今まで、ぼくたち家族のことを知らない人々が尋ね、答えてきたように、『妻は亡くなった』と話さねばならない。