LOVELY☆ドロップ
「何がチカンだ!」
怒鳴った後、ぼくも負けじと彼女を睨む。
しばし睨み合いが続くとそう思ったら、彼女の大きな目に涙がたまりはじめていたことに気がついた。
細い眉毛が今も怒っているのだと主張しているものの、ふっくらとした唇はへの字になっている。
それは今にも泣き出しそうな表情だった。
彼女には痴漢呼ばわりされたどころか平手打ちもくらった。
怒っているのも事実だ。
それなのに、彼女が泣き出しそうな表情を見せただけで、胸の中にあった怒りは消え失せてしまった。
本来、ぼくの立場であるなら怒ってもいいはずなのに、なぜかいたたまれない気持ちになる。
ふたたび沈黙が寝室を包む中――だが今度は、沈黙は長く続かなかった。
「んん……なあに?」
沈黙を破った平べったい声はうまく呂律(ロレツ)がまわっていない。
祈が、この騒動で目を覚ましたんだ――。
祈が小さな体を起こすと、彼女とぼくの間にあった上掛け布団がこんもりと盛り上がる。
祈は自分が眠っている間に何が起きたのかと様子をうかがっているらしい。
眠気眼(ネムケマナコ)のまま眉根を寄せ、眉間に皺(シワ)を作ってぼくを見上げる。
それから順番に、後ろにいる彼女を見た。
そのとたん、祈の表情は一変した。眉間の皺は消え去り、輝くばかりの満面の笑顔があらわれた。
「おねいちゃん!! げんきになったの? よかった!!」