LOVELY☆ドロップ
だが、はたして祈は今まで夕食をするということだけでここまで楽しそうにしていたことがあっただろうか。
ぼくはふと思い直し、器材を探る手を止めた。
少なくとも日常ではあまり見られないはしゃぎっぷりだ。
これはきっと――いや、絶対彼女が原因だ。断言してもいい。
彼女とは、雨の中で祈が見つけた可愛らしい女性のことだ。
その彼女と出会った祈はとても嬉しそうにしている。
それもそのはず、この家で女性といえば祈ひとりきりなのだ。
なにせぼくの妻、沙良(サラ)は祈が生まれてまもなく亡くなった。
母親の顔さえ知らない祈は年上の女性に甘えることができなかったんだ。はしゃぐのも無理はない。
「おねいちゃん、まだおきないかな~」
やはり祈は今日出会った女性のことを考えていたようだ。
祈について分析していたぼくの推理はまさにヒットした。
祈はフォーク片手に眉毛を下げ、彼女が眠っている部屋――つまりぼくと祈の寝室を見つめた。
「もうすぐ起きるんじゃないかな?」
「おきたらげんきになってる?」
ぼくが包丁で玉ねぎやら人参やらを刻みながらそう言うと、祈は握っていたフォークでテーブルを叩くのを止めた。
突然生まれ出た静寂の中で祈の平べったい声だけが台所に広がる。
その声は寝室で眠っている女性を心配するものだった。
「そうだね、きっと元気になってるよ」