LOVELY☆ドロップ
彼はあたしよりも年上だと思うし、男の人に可愛いなんてとても失礼なのかもしれない。
それでもあたしはそう思った。
そうしてすっかり気が緩んだあたしの口からは笑い声が飛び出した。
「よかった……笑ってくれた」
「……えっ?」
ぼそりとつぶやいた彼の声はうまく聞き取れなかった。
訊(キ)き返すと、潤さんはあさっての方向を向いてしまった。
ふいに沈黙が流れる気まずい雰囲気。
その中で、この場に不似合いなほどの明るい足音が近づいてきた。
「パパ!! みがいたよ!! おねいちゃんとねる!!」
さすがは祈ちゃん。
彼女は窮地(キュウチ)を救うスーパーヒロインね。
彼女の登場であたしは安堵のため息をつく。
「よし、えらいぞ祈!! パジャマに着替えておいで」
潤さんもさっきのことが無かったかのように振る舞い、祈ちゃんの背中を押して部屋から出て行った。
……だけど。
あたしの中では無かったことにはできない。
あたしの心臓はまだ大きく高鳴っていた。
だけど、静まり返った6畳の部屋であたしひとりだけになってしまうと、それも間もなくしてすぐに現実へと引き戻される。
やって来るのは絶望と不安ばかり。
これからのことを考えると、胸がぎゅっと締めつけられる。
苦しくなる。
――ここは祈ちゃんと潤さんの家で、あたしは他人。
だから出て行かなくちゃいけない。
……とりあえず、明日……。
とても億劫(オックウ)だけど、社宅に戻って新しい仕事先を探さなきゃ。