短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
二人が雪音の新居に戻ると、既に日は暮れかかっていた。
最低限の必需品を吟味したつもりだったが、一から揃えるとなるとかなりの買い物だ。
雪音は疲れたのだろう。両手に袋を持ったまま、床に座り込んでしまった。
恵一は靴を脱がずに、玄関先に荷物を下ろす。
ワンルームの雪音の部屋を見渡すのに、それ以上中に入る必要はなかった。置いてあるのは昨日恵一が持ってきた布団一組と、雪音が持っていたボストンバッグのみ。部屋の向こう側の窓から、下の街並みまでもが見渡せた。
その窓から淡い夕日が入り込んで、中にいる二人と荷物全てを同じオレンジ色に染めている。
「日が暮れる前に、カーテンをつけないとな」
「うん、自分でできる」
雪音はいつもと同じ調子で答えたが、恵一に背を向けたまま動かない。
「・・・明日、ロンドンに行く前少し時間があるから役所に行こう。住所変更の手続きをして、それから・・・」
「自分でできるから」
明るい声色なのに、どこか他人行儀な響きだった。
「・・・そうか。じゃ」
ドアノブに手をかけた恵一を、雪音の声が追いかけた。
「どうもありがとうございました」