短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~

修道院の院長とケンカして飛び出したときに、雪音の頭には恵一しか思い浮かばなかった。
一週間の階段住まいが平気だった訳ではない。
雪音には恵一にぃしかいなかったのだ。
だから、嬉しかった。昨日恵一が、嘘でも「妹だ」と言ってくれたことが。

赤の他人。
その言葉が、氷の破片のように刃先を尖らせて雪音の心に突き刺さる。
そうだよね、恵一にぃにとって私は、飽くまで赤の他人。
頼られたから断れなくて、世話を焼いてくれたただの顔見知り。

恵一の好意に、ただ甘えた自分が恥ずかしかった。
自分が絆だと思っていたものが幻と分かって、ただ悲しかった。

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