短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
自分はまだ、愛ということについて何も知らなかったのだ。
本当の「愛してる」は、「アイシテル」の5文字だけでは決してくくれない。それは人生そのものなのだから。
恵一にぃは最初から、それを知っていた。
優しさが後から、でも確実に胸に伝わってきて、雪音は最初と違う種類の涙を流した。
私とあなたは何の必然性もない、赤の他人。
それでもいつか、広大な世界から自信を持ってあなたを選べるように。
私は自分の人生を生きよう。
そのときまで、大切なその5文字は胸にとっておく。
雪音は涙を拭くと、立ち上がった。
(『赤の他人』:完)