短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
恵一の言う通りだった。
言葉には出さなかったけれど、窮屈な院の生活は息がつまる思いで。
ここで海を眺めていたのは、この孤島のような場所からいつか広い外の世界に飛び出していきたい、という憧れの気持ちからだった。
それでも、一歩外に足を踏み出せば、そこは右も左も知らない世界。
身寄りのない雪音にとって社会に出るということは、大海原に放り出された一枚の木の葉みたいに心細いことだった。
それを、分からないわけでもないでしょうに。
恵一の意地悪に思える追及に、雪音は反撃に出た。
「ここを出て、例えばどこに行けばいいっていうのよ」
「例えば…」
今度は恵一が言い淀んだ。
視線をそらし、海を見る。
「例えば?」
少しの沈黙の後、恵一が口を開いた。