短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~


雪音は箒を拾うと、また掃き掃除の真似事を始める。

しばらくして、海沿いから走ってきた電車が、駅に一瞬止まり、また動き出すのが見えた。
雪音はその電車を、姿が見えなくなるまで見送る。

電車は雪音の胸に、一抹の切なさと暖かさとを残して、去っていった。

自分を呼ぶ声に、我に帰る雪音。

「掃き掃除、手伝いましょうか?」

「ううん、もう終わったわ」

「楽な仕事と代わってもらって、なんだかすみません」

「いいのよ、私掃き掃除の方が好きだから」

後輩を先に戻らせると、雪音はもう一度、振り返って電車の消えていった先を見た。

心の底にしまい込んでいたはずの思いが膨らんで、喉の奥が苦しい。


――恵一にぃ。本当はね。





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