短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
二人の背後で、穏やかな笑い声。
「まぁ、それは何のお遊びなの?」
広い庭園に面して設けられた白いバルコニーに、優しい笑みをたたえる女性が座っていた。
細い体を、この陽気には不釣合いなガウンで包んでいる。
スミレがまた元気に駆け出すのを見送ってから、しゃかきはその女性の傍らに立つ。
「お嬢様に、夜寝る前に本を読んで差し上げているのですが。昨夜読んだ『シンデレラ』が、大変お気に召されたようで」
女性がまた笑う。
その肌は、そのままいなくなってしまうのではないかと思えるほどに白く透き通っている。
「ふふ、それでお姫さまなのね」
「えぇ。とても元気なお姫さまです」
二人は自然に、庭に視線を向けた。
スミレは、広々とした庭を駆け回りながら、白いピレネー犬と戯れている。
時折、二人がそこにいるのを確認するように振り向くと、曇りのない笑顔を向けた。
二人は、何も言わずにその姿を見守った。
この何気ない幸せなひと時が、一秒でも長く続くことを願って。
ふいに、女性が苦しそうに顔をゆがめた。
「奥様!大丈夫ですか」