短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
「おかあしゃま、おかあしゃまぁ・・・」
母を慕って泣き続ける、幼いスミレ。
膝を抱えて座り込んだ出窓から見えるのは、母と遊んだ庭。
スミレの気持ちが乗り移ったかのような、昼間だというのに薄暗い空からは、雨が止むことなく庭に降り続いていた。
「スミレお嬢様、お食事をお持ちしました」
榊が昼食を部屋に運んできたが、スミレは顔を背けてしまった。
「いらない!しゅみれはおかあしゃまに会いたいの!」
そう言って、また泣き始める。
無理もない、まだ幼いスミレには母親の死など理解できるわけもなかった。
榊はため息をつくが、笑みをたたえてスミレに近づく。
「そんなに泣いては、せっかくのきれいなお顔が台無しですよ?お姫様」
スミレは、騙されなかった。
榊に顔を背けたまま、窓に鼻を押し付ける。
本当に、せっかくのきれいなお顔が台無しだ。
「しゅみれは、おかあしゃまがいいの!」