短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
榊は、指を鳴らした。
天蓋の付いたスミレのベッドが、二人の中でボワン!と音を立ててかぼちゃの馬車に変身した。
「あ、かぼちゃのばしゃ!」
まだ涙の乾ききらないスミレの瞳が輝きだした。
「お急ぎください!早くしないと、意地悪な継母に追いつかれます!」
榊はスミレを抱え上げると、くるくると回りながらベッド、もといかぼちゃの馬車までスミレを運ぶ。
その浮遊感に、スミレは思わず笑い声を上げた。
ふかふかの布団の上にスミレを下ろすと、榊はしゃがんでスミレの顔を覗き込んだ。
次は何が起こるのかと、ワクワクするスミレ。
その顔はもはや、母を失った悲しみに耽る少女のものではない。
「大変だ!継母がもう追いついた!」
「しゃかき、はやくばしゃだして!」
「ちょっと揺れますから、しっかり捕まっていてくださいね。それでは、出発!ヒヒーン!」