短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
榊がうなずいた。もう迷いは、ない。
「それでは、参りましょうか」
窓を開けると、レースのカーテンが誘うように風にはためいた。
その向こうには昔スミレが母と遊んだ、芝生の庭。
榊はスミレを抱き上げると、音も立てずに庭に降り立つ。
「ねぇ、榊」
榊の首に腕を回したスミレが、イタズラっ子のような顔で尋ねる。
「私はまだ19だから、ギリギリ大人じゃないわよね。あなた、大人なんだからネバーランドには行けないんじゃなくて?」
榊はスミレの顔を見ると、余裕の笑みを浮かべた。
「おや、まだお気づきではありませんでしたか」