短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
雪音は何事もなかったかのようににっこり笑うと、立ち上がった。
「おかえり、恵一にぃ」
スカートについた土ぼこりを叩いて落とすと、床に置かれていた品々をカバンにしまい始める。
よく見れば雪音の下には、果物を箱で買ったときに使われるような水玉のビニール風呂敷が敷かれていて、その上に歯ブラシとコップ、といった最低限必要な日用品が並べて置かれていた。むき出しになった排水管の取り付け部分には、針金のハンガーがかけられてタオルが干されていた。
どういうことだこれは、今さっきたどり着いたという状況ではない。