911の恋迷路

 果歩の肩まである黒髪を優しく撫でてくれる隼人。

 (ううん)

 果歩は、首を振る。

 (そうじゃないの)

 

 (あたしの中に、いつの間にか慎の存在は大きくて)

 突き刺すようになっていた。

 

 これは同志としての好意なのか恋なのか愛なのか。分からないけれども懐かしい甘い気持ちを踏みにじられたことが、やはり悔しい。

 裏切られた憎悪さえ感じる。

 同時にそれは隼人への裏切りだ。

 

 恋人とふたりで抱き合っている時でさえ、入り込んでくる止められない慎への感情。


 「沼田慎だっけ? もしそいつの会社に行って話すようになったら、俺、一緒に行くわ」

 (隼人はあたしが落ち込んでいる以上に、気になるよね)


 「隼人」

 「んん?」

 「ごめん、それと……ありがと」

 「じゃ、寝るか」


 すぐに背中を果歩に向けて眠ろうとしている隼人。

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