911の恋迷路
会社
9月22日午後。
台風一過が嘘のように、その日の東京は晴れ渡っていた。
慎は午前中に外回りを済ませ、午後は浜崎の案件のヒヤリングで社に戻っていた。
浜崎は初めての外仕事を何とか順調に進めているらしい。
依頼主の嫌いな舅の散歩を長引かせてほしいという依頼だ。
浜崎はどうやらうまく舅と仲良くなることに成功したらしい。
「このおじいちゃん、怖い顔しているんだけど、かなり話が面白いんです」
順調に仕事をこなしているようで、得意げに報告をする。
「散歩に連れてるプードルがまた可愛いんです。それでね、名前が『プー』って適当すぎません?」
慎も沢森も浜崎の話に引き込まれて笑ってしまう。
そこへ社長が急ぎ足でオフィスに入ってきた。
「おつかれさまです」
「おう、ごくろうさん」
難しい顔をしながら入ってくるなり、社長は自分でコーヒーを入れた。
(それにしても社長、険しい表情だな)
浜崎や沢森とクライアントの話で盛り上がりながらも、社長のことが気になる。
社長はメモを取り出し、考え込んでいたが、しばらくして慎を呼んだ。
「沼田、ちょっと」
「なにかあったんですか」
「うむ……花井さんという女性を知っているかね」
(花井…果歩さんのことをなぜ、社長が)
もしかして。
果歩は慎の会社に本当に連絡をしてきたのだろうか。