911の恋迷路
慎の目に再び熱いものが込み上げてきた。
「すみません……」
眉間を押えるしぐさで、涙を留める。
「わたしに陵さんの事を言いたくなければ、それはいいんだが……花井さんに は話さないといけないよ」
「わかっています」
慎は時間をおいて果歩に話すつもりだった。
それを聞いて、社長は首を振る。
「いや、わかっていないな。沼田、わたしが便利屋を始めた理由を知っている かい?」
話が意外な方向にずれた。
社長が意図してずらしたのだ。
「わたしが便利屋を始めたのは、世の中で家族と言われる間でさえも分かり合 えないからだよ」
「何をおっしゃりたいんですか」
「沼田、君も仕事で経験してきただろう。家族といわれる関係にありながら、 その絆が今はどんどん薄れてきている」
社長は慎に陵の携帯電話を返した。