911の恋迷路

 社長はゆっくりとコーヒーを飲んだ。その間、電話が鳴って社長が応対をする。

 
 ハイ、ハイ……と返事を繰り返し、「ではまた」と単調に応対している。

 電話を切って、社長は慎に言った。

 「そろそろ皆にもどって仕事をしてもらわないとな」

 「すみません……呼んできます」

 

 きっと同僚たちは、共用スペースの給湯室で時間をつぶしているだろう。

 「沼田」

 「はい」

 

 「花井さんには沼田から電話してくれ。花井さんは陵さんに会いたがっている」

 「ええ……そうですが、僕は、沼田家に出入り禁止でして僕が話しても稔に断られるでしょう」

 「だから花井さんが沼田家を訪問するときに同行すればいいんだよ。花井さんを稔さんも締め出すことはないだろう」


 慎は果歩のことを思った。果歩は必ず陵に会おうとするだろう。

 

 自分は?

 陵に会えるのであれば、会いたいだろうか。

 沼田家に出入り禁止になっているのは、本当だけれど。
 
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