911の恋迷路

 同じフロアにある共用スペースを覗くと、同僚たちが、一斉に慎を見た。


 「社長と話、終わりました」

 「沼田、何かヘマしたの」

 沢森が、待ってましたとばかり声を掛けてきた。


 「……ま、沢森さんの想像に任せます」


 勿体ぶっちゃってさ。沢森はタバコの火を消してオフィスに向かう。



 共用スペースに併設された給湯室から、浜崎が顔を出した。


 「悪かったな、報告の途中に」

 慎が謝る。

 

 「……心配したんですよう」

 浜崎が、むくれる。

 
 (よく見ると可愛いんだよな、こいつ)

 茶色の髪をポニーテールにして、白いシュシュで飾っている。

 老人相手だからか、前よりナチュラルメイクになった。

 慎より年下だが、なかなか人づきあいを器用にこなす。いい女になっていくだろう。


 そんな事を考えるとはずかしくなってきた。いそいで仕事の話に戻る。



 「それで、えっと……じいさんの犬の散歩のおともは順調なんだな」


 浜崎とオフィスに戻りながら確認する。

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