911の恋迷路

 
 傍らで新聞を読んでいたビジネスマンが顔をしかめる。

 

 「あ、すみません」

 果歩は携帯を取り出す。

 

 メール着信。

 

 「店の大きなスピーカーの近くの席にいます」

 メールを見て直ぐにスピーカーを探した。

 古い家具に囲まれた店内に巨大なスピーカーがあった。

 

 (これがスピーカーよね)

 

 近くの席で本を読んでいるスーツ姿の若い男性がいる。

 横顔を見て、果歩の背中にひやりと汗が流れ落ちた。薄暗がりの中、ぱっと見た感じ、似てないこともない。

 


 (まさか、まさかだよ? 陵くんかな)
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