911の恋迷路
男性が果歩に気付いて顔を上げる。
(え?陵?)
本を閉じて男性が果歩に向き直る。
行方不明になっていた陵?
「陵くん?」
小さな声で呼び掛けると、男性は目を細めた。
困ったような、照れたような表情。広い肩幅の上に小さな頭がバランスよく配置されている。
思ったよりも若くて元気そうに見える。
10年の時間が経っても陵の面影はあって、ほっとする。違う点も多いけれども、時間がたっているのだから。
果歩の心にあたたかいものが流れてくる。
(ああ、陵くん……)
鼻がつんと痛くなって、うつむいてしまう。
感傷にひたっていたら『陵くん』は頭を下げた。
「すみません」
それは遠慮がちで、果歩にとって違和感がある動作だ。
(え?)
果歩は男性の下げた頭を見つめるしかない。
(どういうこと?)
「陵じゃないです、僕」