911の恋迷路

 
 「果歩からは大体聞いているが、今日は行って大丈夫かい」

 「ハイ……」

 慎は腕を組んで後部座席に深く座っている。

 その姿は偉そうに見えるが、自分を防御しているようにも見えた。


 「稔の…兄の母親は今日は…稔がうまく出かけさせているはずです。僕を  『毒虫』と言っている方ですから」


 

 慎の静かな言葉には軽々しく頷くわけにいかない厳しさがあった。


 (慎は、『沼田を名乗る毒虫(どくむし)』……てとこか)

 

 慎が陵に会うなんて、母親にとっては、とんでもないことなのだ。

 異母兄弟とはいえ、やりきれない。


 
 果歩は切なくなった。
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