911の恋迷路

 果歩は声をかけた。

 
 「……りょうくん…」

 
 不安で待つのを止めようと思いつつも、

 この時がくるのを心のどこかで待っていた。


 望んでいた。

 
 (よかった、生きていた)

 


 喜びの気持ちと同時に、果歩の心のうちの不安が和らいでいく。

 
 
 「……お客さん?」

 「そう、兄さんと親しかった人が訪ねて来てくれたんだよ」

 陵は、にこにこと笑った。無邪気な瞳。

 そこには感情の波がない。



 果歩のことを見ても分からないようだった。
< 138 / 232 >

この作品をシェア

pagetop