911の恋迷路

 身体は陵であって魂が陵ではない。
 そんな男性が果歩の前にいた。

 

 慎は果歩の後ろで影のように立って2人の様子を見ている。

 
 戸惑って後ろを見ると慎と果歩の目が合った。

 慎の唇の端がゆがむ。

 

 (笑っているの?)

 果歩が見つめると慎の瞳は泣いていた。



 泣き笑いだ。

 入口に突っ立っていたことに気づき、

 健が率先して居間のソファに座った。

 

 果歩と慎も陵に向かい合う位置に座る。


 陵の表情は動かない。


 穏やかでどこか違う世界に独りいるようなのに、どこか幸せそうだ。

 果歩は陵の意識のあるところを探ろうとしてみる。

 


 手を伸ばして届く所に座っている陵なのに、


 果歩にとっては遠い。

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