911の恋迷路

 果歩と慎の間にある空間に向けて放たれたような単調なお礼。

 健は、場の微妙な空気を察しつつも、
 何と言っていいのか分からないのだろう。

 ひたすらお茶を飲んでいる。


 

 「おかわり、持ってきます」

 空になった健の茶碗を盆にのせて稔が席を立つ。

 そして慎に向いて「ちょっと」と短く合図をして居間をを出て行った。

 慎は小さく礼をして稔に続いて出る。


 稔と慎が出て行って、居間には陵、果歩、健の3人が残された。


 少しの時間も長く感じられる。


 時間がたてば経つほど果歩の記憶の中の陵との違いを思い知る。

 
 部屋の時計の針が動く音が耳障りなくらい、
 静かで息が詰まるような時間だ。

 
 空っぽになった茶碗を前にふたりが戻るのを待っていたら、
 荒い声が聞こえてきた。

 

 奥のほうから、男性にしては甲高い声がする。

 稔だろうか。


 「……どういうつもりだよ!こちらが困る事をして、面白いか!」

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