911の恋迷路


 陵はCDを不思議そうに手に取って眺めている。

 「これ…僕があなたと昔聴いた曲ですか?」


 『昔の曲』…以前も、陵はそう言っていた。

 

 果歩は昔の陵のかけらに、不意に出合って涙ぐむ。

 「このアルバム、陵くん好きだったんですよ」

 (ううん、好きだったのはあたし…だけど)


 「あたしは好きだったと信じています」

 果歩は言い切って照れた。

 
 あたしのこと、果歩を陵くんは好きだったですよ、

 と想いを込めて。



 (あたしも大好きでした)


 


 「僕は…記憶がなくて、ゴメンなさい」

 寂しそうに微笑する陵。

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