911の恋迷路
健がハザードランプを2回点滅して車を出発させる。
慎は手を上げて、車と反対方向へ歩き出した。
「なあ…果歩」
遠ざかる慎の姿をバックミラーで見ている果歩に、健が話しかけた。
「なに」
「切なかったな」
「うん」
血が繋がっていても形だけでは本当の意味での絆にはなりえない。
(陵くんは家族の絆をつくろうとしていたんだね)
果歩は訪問した家の表札が離婚しても「沼田」であることに、
稔の母親の執念を感じた。
女の執念や嫉妬からくる嫌悪にさらされる慎は
壊れそうになることも多かっただろう。
「……稔さんたちと慎さん、
もう少しお互いのこと話す時間があればいいな」
慎のために、稔、稔の母親のためにも、
憎しみや嫉妬のエネルギーを愛情に向けられるように、なってほしい。
果歩は車の窓を開けて、
秋の風を顔に受けながら、祈る。