911の恋迷路

 気づかないうちに、隼人からメールが来ていた。

 
 『兄ちゃんと楽しんでる?
  今晩、そっち行っていい?』
 
 (はやと…いつもごめん)
 
 

 隼人がいつも後回しになっている。
 彼氏なのに、彼氏として果歩の心のなかを占めていない。 

 今日の訪問で果歩の心のなかの迷いの霧が晴れてきて、
 見えてきたのは、隼人への想いの無さ。

 

 果歩自身の残酷さ。
 
 ただ寂しくて一緒にいてくれる人がほしかった、という弱さ。

 傍にいなくても、ずっと好きでいる、待ち続ける、
 
 そんな苦しさを
 果歩自らが知っているというのに。

 
 

 (今、あたしは慎さんの心配で頭の中がいっぱい……)

 『今晩大丈夫。家きて』

 なのに果歩は、隼人に甘えてしまう。

 (あたしは、ズルい)
 
 
 隼人をすぐに絡め取ってしまう。
 隼人に頼ってしまう。
 
 のろのろと指を動かして、隼人にメールを返したとき、

 鼻の奥がツンとした。

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