911の恋迷路
何処へ
茨城から帰宅して、果歩は玄関を入って床に座り込んでしまった。
冷えた床に座っていると窓から差し込む夕陽の明かりが刻々と暗くなる。
暗闇は泣くのに最適だ。
バックの中からテパスを取り出して一粒口に含む。
安定剤を舌下投与(ゼッカトウヨ)すれば、気持ちが安定する。
いつからか飴玉代わりに薬を口に含むような習慣がついていた。
(薬を止めなくちゃ…幾度も思うけれど)
果歩の頬に涙が伝わる。闇に包まれていく部屋に独りたたずむ。
今日は沼田の家で大胆な行動をとってしまった。
慎をかばうために稔に意見をした。
こんな弱いあたしがどうして、と果歩は今さらに恥ずかしくなる。
(あたしは、どうしても慎をかばいたかったんだ)
この気持ちは同情を超えて果歩の理性に反して育っていく。