911の恋迷路

 隼人の愛情を大事にしたい。その想いに応えたい。
 なのに果歩はくすぶった心の炎を消し去ることが出来ない。


 静かな闇を切り裂くチャイムの音に反射的に立ち上がる。

 「果歩、どうした」

 涙を拭いてドアを開けると隼人が果歩の頭を抱く。

 「部屋が真っ暗だから心配した…、いるなら電気つけろよ」

 

 白いスーパーの袋を手に、隼人はズカズカと部屋に入る。

 「兄さんと何か、あったのか?」

 「違うの」

 
 果歩は言い訳をとっさに口にする。

 「ちょっと…さみしくなっちゃっただけ」

 嘘じゃない。

 でも本当は少し違う。
…そんなこと、優しい隼人に言えるだろうか。

 
 本人を目の前にして、
 
 今日気づいてしまった気持ちを言っていいのだろうか。
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