911の恋迷路

 「なんだ、さみしくなっちゃったのか」

 隼人は果歩の言葉を繰り返す。
 ビニール袋をキッチンにぽいっと置いて、果歩の肩を抱く。

 「俺がいるから、さみしがるな」

 (…隼人は優しいし、温かいし、一緒にいると安心できるし…)

 隼人が悪いんじゃない。

 


 隼人の腕の中でその温かさを感じながら、
 果歩は思い出してしまうのだ。

 

 
 陵の匂い。

 陵の背中に顔を寄せたときに、ふと香った懐かしい匂い。

 その匂いを隼人の匂いは忘れさせてくれない。
 残酷なまでに明瞭に陵を思い出させる。

 

 そして…陵の匂いは慎につながるのだ。

 

 陵と果歩を静かに見守ってくれていた慎。
 ふたりをこのタイミングで出会わせた慎。

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