911の恋迷路

 慎と稔の険悪な空気に押されるように、
 果歩たちは沼田家を出て来てしまった。

 あの時の事を、陵は忘れてしまう。
 慎は一方で、また心の傷が増えてしまう。

 物想いにふけりながら、箸を動かしていたら、

 隼人に視界をさえぎられた。


 「おい、ぼーとして、どした?」

 「はやと」

 「言いたい事あれば言えば」

 

 言いたいこと……。

 「あたし、また陵くんの家に行きたいんだけど」

 スルスルと流れるように、頭の中で考えていたことが出て来て驚く。

 

 (あのままじゃ、慎さんと陵くんは、また、会えなくなる。
  
  あたしに出来ること、もうないのかな……)
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