911の恋迷路

 「沼田さん、沢森さん、あたし、仕事で外出してきます」


 何時ものお爺さんの犬の散歩の付き合いだ。

 毎日会うのは気が引けるので、初めは日をあけて会っていたが、
 今ではすっかり仲良くなってしまった。

 


 「プードルの『プー』ちゃんだっけ?」

 沢森が早速、茶化す。

 

 「困ったことはないか?」

 ふられた後の沼田の優しさは身に沁みる。

 浜崎は形ばかりの笑顔を作って、オフィスを出た。


 ビルを出たら冷たい秋風を感じた。

 今年は一気に寒さが舞い降りてきそうだ。


 
 足早に品川駅へと向かいながら、

 浜崎は胸の痛みを隠すようにハーフコートのボタンを止めた。
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