911の恋迷路

 足元はローヒールだ。歩きやすいのが気に入っている。


 急ぎ足で駅に向かっていると、急に肩をつかまれた。


 「お、お前さ……」




 振り返ると沢森が息を切らして、
 
 上半身を苦しそうに折り曲げている。


 「歩くの、はえ……」

 「なんですか」

 追いかけてくる程の用事があったのだろうか。

 沢森は息が上がった状態で、


 浜崎に苦しそうに言った。


 「オレ、さっき言った事、本気だから」

 (付き合ってくれって事?)

 それを言いに追いかけて来たのか? 

 ひるんだ浜崎は、手を上げて踵を返して去っていく

 沢森の後姿を唖然として見送る。

 

 (やっぱり変な男……)

 呟いてから、ふと我に返る。
 
 触られた肩を見て、鼻糞が付いていない事を確認した。

 「やっぱり苦手」

 笑い出しそうになりながら、浜崎は歩き出した。
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