911の恋迷路

 カフェに着くと
 慎が1階の窓際カウンターの席で横断歩道を行き交う人の波を眺めていた。


 狭い店内でカフェオレを手に果歩が隣に並ぶ。

 「今晩は」

 「こんばんは」

 腰かけて熱いカフェオレに口をつける。

 「今日は冷えますね」

 今日何度目かの言葉に、首をすくめながら熱いカップに口をすぼめる。

 「今日はあったかくて美味しい物でお腹を満たそうね」

 「鍋物がいいな」

 「いいねぇ、鍋の季節、やって来たね」

 

 果歩は隼人が作ってくれた鍋を思い出す。

 こうして慎とふたりで居ることに胸が痛んだ。


 (早く稔さん、来ないかな)

 暗くなった道路に稔の面影を捜すが見つけられない。
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