911の恋迷路

 羽津とよく座って話したベンチを見つけ、近づく。


 ベンチには先客が居た。

 白い半袖シャツにジーンズ、薄着で中背の男だ。

 うなだれて、脚を大きく広げ、手をその前に組んでいる。
 


 (じゃま)

 そう思いつつ、隣の空いたスペースに亜美は腰を掛ける。

 (早く行ってくれないかな)

 

 隣の男の様子を伺うが、こちらを見ようともしない。

 じっと手を組んでそこに頭を載せたままだ。

 

 亜美はわざと大きく溜息をついて

、羽津の文庫本を取り出す。

 

 ここで羽津との思い出に浸って本を置いて帰ろうと思ったのに、
 
 男が邪魔でどうも落ち着かない。
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