911の恋迷路

「昔、そうだった」

 「へえ、カッコいいですね」

 亜美の褒め言葉にまんざらでもない様子で男は少し笑う。

目は赤いが、そのうち立ち直るだろう。
 

 「それさ、ほんと面白いの。元気出るから、読んでみて?」

 「え」

 「帝王がくれたんだよ」

 亜美はそれだけ言って背を向けて歩き出す。

 

 次の外回りに出かけないといけない。

 そう強く思った。

(あたしはこの仕事を辞めずに、続けなくちゃ)

 
 第3巻のみを渡された男は

 亜美の後姿を呆然と見ているだけだった。

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