911の恋迷路
(あ、電車行っちゃった)
目で追って果歩が呟く。
「行っちゃったね」
「行っちゃったな」
「繰り返さないで」
「繰り返すな」
悪戯っぽく口をゆがめる慎を、果歩が軽くたたく。
「ほんとに、もう稔さんと喧嘩を繰り返さないでよ」
「そこに持って行くなって」
なぜだろう。
こんな言い合いさえも、余りにも愛おしい。
見つめ合って、慎と果歩は唇を合わせた。
生きているキスの味がした。
(完)
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