911の恋迷路


 「お客さん、どちらまで」

 運転手の問いに、ひとしきり慎は笑ってから、

 「ふふ。品川駅前まで」

 運転手に応える。

 

 「え、会社、品川なの?」

 「そう」

 
 (ひと駅くらいかと……)

 18時なんて絶対、ムリ!

 

 「タクシーじゃ、これから道が混むねぇ」

 
 慎がニヤリと口の端を歪めて笑う。


 
 「電車のほうが早く着くよね?」


 うう……。

 (そうですね!!!)

 果歩の早とちり。

 
 「ごめんなさい」

 果歩は謝った。

 「まあ、いいですよ。18時なんて、過ぎちゃっても」


 (は?会社に18時迄に戻らないといけないんじゃ?)
 
 表情をクルクル変えている果歩の表情を見て、考えることが分かるのか、慎は笑う。

 そして果歩の気持ちを察したかのように慎は言い放った。

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