911の恋迷路
「タクシー代はモチロン、花井さん」
お願いします、と果歩は視線で慎にお願いされる。
(陵くんと同じ眼で訴えないでください……)
うらめしく思いつつもヤケになる果歩。
(分かってますよ、あたしが出しますよ!!!)
やはり陵くんとは違う人間だ!
全くもって中身は違う!
いじわる。
タクシーはちっとも前に進まないし。
(動かない……)
果歩のお尻が痛くなってくる。座席が硬くて腰がつらい。
(本当に)
(混んでるなあ)
夕方の道玄坂は、やっぱりとても混んでいる。
果歩と慎は並んでタクシーの後部座席に座るのみ。
「せっかくですから、ゆっくりしましょう」
スマホを操作しながら、慎がポツリと話しだす。
「あ、これ」
果歩は握りしめていた陵の携帯を差し出した。
「じつは興味あるんじゃないですか?」
また慎が意地悪な顔をする。
(やなやつ)
でも、懐かしい感覚がまた沸き上がってくる。