911の恋迷路


 「陵くんの携帯が残っているとは想定外だったけど」

 果歩は、スマホの画面の上に、古い陵の携帯を重ねた。

 「ハイ」

 「中を見ないんですか?」

 

 慎の問いかけに、首を振る。

 「今さらだよ」

 「……」

 黙って携帯を受け取って、スマホの操作に戻る男の横顔は、ちょっと寂しそうだ。

 

 でも考えて、また果歩を挑発してくる。

 
 「期待ハズレだな。見てもいいと思いますよ」

 「プライバシー侵害だし」

 「じゃ、僕は兄の携帯のなかを見たのでプライバシー侵害しちゃったわけだ」

 「そう」

 

 (早く車、流れてくれないかな)
 

 苛立ちを感じつつ、果歩は頷いた。
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