911の恋迷路


 (あたしなんて、しっかり超えてしまったよ)

 心の中で、毒づく果歩。

 

 「ありがと」

 別に見たくもなかったからお礼を言うことないのに。スマホを返しながら、
慎を気遣う。


 最近、本心と違うことを言うのに果歩は慣れてきてしまっている。


 

 街はどんどん暮れていく。

 道玄坂下に入った所で、慎はタクシーを停めさせた。

 「すんません、混んでいるしここで降ります」

 

 料金がかさむことを気にしてか、慎はタクシーを降りる。

 慌てて果歩も慎に続いてタクシーを降りる。

 

 果歩は料金を支払っていたときに運転手に声をかけられた。

 

 「お客さん、何か落とされましたよ」

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