911の恋迷路

 

 「じゃ、僕はここで」

 「じゃあ、ね」

 
 少し離れて立つと、慎の背丈も陵くんと同じくらいかな。

 でも何より、慎の瞳。

 一重だけれど、ちょっぴり黒目がちだから、優しげに見える。



 果歩は慎に見惚れてしまう。細いわりにしっかり広い背中を見送ってしまった。

 


 「あ、そうだ、花井さん」

 踵を返して渋谷駅へ向かっていた慎が、果歩のほうに戻って来る。

 

 (戻ってきて、うれしいかも)

 なんて思う自分に、とまどう果歩。

 


 「メール、また送っていいですか?」

 「『陵くんメール』はやめてね」

 

 「了解です。赤外線通信で僕のアドレス送るんで、携帯かしてください」
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