911の恋迷路

 
 「浜崎がね」

 ポツリと社長がつぶやく。



 「この仕事、辞めたいってさ」

 なるほどね。

 

 (髪も薄くなるわけだ)

 

 ファイルから顧客のデータを自分のスマホへ送信する。

 作業の手を止めずに、慎は社長を慰めた。

 

 「浜崎はバイトですからね。仕方ないですよ」


 (この仕事、特殊だからな)


 「今はバイトでも仕事できるようになったら、社員にするつもりなのに」

 社長が悔しそうに平社員の慎に訴える。


 (データ送信完了)
 
 
 ノートブック閉じて、と。メロンパン、ご馳走様。

 慎はコーヒーを一気に飲む。

 
 
 社長を見ると部屋に身体を向けていた。

 「あ、僕もう出ますから」

 社長の恨めしそうな顔。

 
 (やれやれ)



 「浜崎に話してみましょうか」

 「本当に!?」
 
 社長の顔が、パッと明るくなる。
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